俺は21から29歳までの8年間、理学療法士として働いていた。
理学療法士は巷ではリハビリの先生なんて言われていて、生意気にも医者と並んで「〇〇先生っ!」と呼ばれている一丁前な医療職である。
理学療法士が他の医療職と違って”先生”と言う枠組みに入っているか不明であるが、個人的に「〇〇先生っ!」と呼ばれてるわりには「俺は医療従事者だっ!」と自信を持って名乗れるほど、医療職である実感がそこまでないような気がしている。
そんなことを頭の片隅で考えながら理学療法士として8年も働いていれば、それなりに身体にも詳しくはなるし、コミュニケーションスキルも向上するが、そんなことを書いていもつまらないので割愛。所詮、大木の枝葉に過ぎない。
俺が話したいのは大木でいう幹や根っこの部分である。
というわけで今回は貴重な20代という時間を理学療法士として捧げた俺がただただ感想を綴っていく。
理学療法士という名のマイナースポーツ
理学療法士と聞いてもピンとこない人が大半だと思うので、まず説明させていただくと理学療法士は働く環境にもよるが社会的にも医療的にもヒエラルキーが高くない。そして給料もそこまで高くない。
理学療法士は医療の世界ではマイナースポーツのプロ選手みたい感じで、日本では認知度はそこまで高くないものの、スポーツ自体は奥深いし楽しいのだが、ふとした瞬間に「このまま、頑張っても先がないんじゃ…?」と疑問を持ち始める人も大半であり、俺もそんな疑問を抱いていた一人である。
陽の目を浴びないプロ集団
医者をスポンサーが引く手数多のメジャースポーツのプロ選手とすると、理学療法士はルール自体皆無のマイナースポーツのプロ選手みたい存在である。
マイナースポーツだって極めればとんでもない身体能力を得る事は可能だが、活躍する場が悪い。
そんなわけで理学療法士は母体も小さいしスポンサーも少ない。マイナーで認知度もイマイチな医療職である。
一方で医者は母体もデカく製薬会社という強力なスポンサーがいるので力の差は歴然である。
知名度以上の実力を有する
リハビリという領域は、世間一般的な医療のイメージと違うというか、ドラマのようなゴリゴリの医療を提供するわけではないので、緊迫感とは無縁の独特で和やかな空気感が漂っている。
素人の方かするリハビリってパッと見、大したことをやってないように見えてしまうけど、奥深く専門性の高い領域なので、過信せずに極み抜けば己の腕一本でバリバリ患者様を治してしまうような超人的な理学療法士もいる。
下手すればそんじょそこらの医者にも引けを取らないぐらいの知識や技術を持ち合わせている場合も多い。
個人的に理学療法士は自己研鑽をしている人が多い印象なので、基本的に実力は折り紙付き(多分)
整形外科は理学療法士の主戦場
俺は理学療法士としてはちょっと特殊な整形外科のクリニックという外来専門の現場で働いていたので、ちょっとここで整形外科クリニックの理学療法士について簡単に触れておく。
理学療法士は身体機能に特化した医療職で、筋力が弱いとか関節が硬いなどの身体機能のあらゆる問題を改善する人である。
整形外科は腰痛や肩こりなどの日常の負担による故障から、骨折と捻挫などの怪我による故障まで、身体を動かすことに関するあらゆる故障を治療する場所である。
クリニックは古い言い回しをすると診療所なんて言われているが、一般常識的には入院がない病院という認識でオッケー。
勘の良い方はもうお気づきだと思うが、両者の説明から察するに”整形外科”と”理学療法士”は相性が非常に良いということになる。まさに水を得た魚状態。
整形外科のクリニックは医療版のライン工場
そんな理学療法士が活躍できる整形外科のクリニックに来院される患者さんは身体のどこかしらに痛みや痺れなどを抱えている。
1日に10~15人、1人あたり20~40分の制限時間内で治療するのが整形外科クリニックの理学療法士の仕事である。
数字だけ見ると大したことなさそうだが実際の現場は工場のラインで物が流れてくるみたいに人が流れてくる。
流れてくる人、つまり通院している患者さんは予約で管理しているので、理学療法士は時間になると予約している患者さんを治療するという流れ。
予約という名の工程を踏みながら治療という名の作業を行なっている。
言うなれば整形外科クリニックは身体機能改善工場であり、理学療法士はそこの社員という立ち位置になる。
流れ作業にコミュニケーションを添える
実際に工場のラインみたいに物が流れてきて作業するのも大変だが、人が工場のラインみたいに流れてくる整形外科のクリニックでは作業という名の治療を施す。
当然ながら患者さんは物ではなく人なので作業という言葉では片付けられない。
患者さんの症状や病態も多種多様で治療の仕方も千差万別なのでオーダーメイドに近いような感覚である。
それに加えて優しくて話しやすい雰囲気を醸し出しつつ、コミュニケーションという気遣いを添えながら接する必要がある。
そして整形外科のクリニックは基本入院がないので、通院してくれる患者さんで儲けを出さないといけない。
通院してくれる患者さんがいなければ整形外科クリニックは潰れてしまうので理学療法士は患者さんに寄り添い、良好な信頼関係を築き、継続的に通院していただければならない。
つまり患者さんから自分の身体を預けられると思わせる関係性の構築が必要不可欠である。
営業マンみたいに働く医療職
そもそも外来専門のクリニックの理学療法士は営業マンみたいになっている気がしていて、いかに患者さんのハートを射抜くかの勝負になっている感じがある。
というのも入院がない外来専門のクリニックでは患者さんが通院するかしないかを選ぶ権利があるので、知識や技術は必要だが二の次でまずは人間性が重要だと思っている。
総合病院とか入院がある病院は紹介とか転院とかで引っ切りなしで患者さんが舞い込んでくるので、入院専門の理学療法士は営業マンみたいにならなくてもいい。
そして良くも悪くも退院という絶対的なゴールがあるので、患者さんと長い付き合いをしなくてもいい。
外来の理学療法士は営業マンとして患者さんから見限られてしまわないように自分の固定の患者さんを作り、その固定の患者さんをなるべくキープする必要があるのだが、これがなかなか難しい。
人に対して職人肌である姿勢
患者さんからの信頼を勝ち取るために患者さんに対して良くも悪くも当たり障りのない対応をしながら、そこから徐々に自分の色を出していくなり、患者さんの色に染まっていくなりして患者さんの心をキャッチしていくのだが、ここで安心してはいけない。
心をキャッチしたら今度は体である。
患者さんの心をキャッチしても治せるだけの実力がなければ患者さんに見切られてしまうので、整形外科クリニックの理学療法士は患者さんの体もキャッチする必要がある。
そもそも整形外科に通われている患者さんは第一に痛みや痺れを治して欲しいだけなので、どれだけコミュニケーションで患者さんとの信頼関係を築き上げても治せなければ意味がない。
理学療法士は患者さんを治してなんぼなので患者さんの症状に向き合い、病態を明らかにする必要がある。
そして患者自身が納得する治療する必要を展開しなければならない。
しかも患者さんの症状や病態、治療の仕方は十人十色なので患者さんの身体と向き合い、痛みと痺れの原因を探らなければならない。
そんなわけで整形外科クリニックの理学療法士は職人肌の営業マンみたいな人が多い(多分)
そういう人が患者さんを虜にしていくのだ(適当)
世間のイメージほど大したことはない医者
これは戦う方の違いの話なのだが、整形外科のクリニックで8年働いて分かったことは今まで自分は医者のことを何でも治せる神様のように思っていたが実際問題、そうでもなかった(失礼)
医者はここでいう医者は整形外科医のことを指す。整形外科医は読んで字の如く整形外科に精通した医者であり、整形外科医は整形外科の絶対的な存在である。
理学療法士は整形外科医の永遠の傘下であり、逆らうことはまずありえない。
そんな天と地ほどの差がある整形外科では整形外科と理学療法士が日々、患者さんを治すために尽力しているのだが、治療の仕方がかなり異なる。
そもそも患者さんを診る着眼点も思考も違うので、治療の仕方が異なるのは至極当たり前なのだが、個人的に整形外科医の治療の仕方は好きでない。
何故なら整形外科医の治療は良くも悪くも対処的ではあり、根本的には治っていないからである。
整形外科医は何もしなくても痛かったり、痛くてどうしようもない場合などの急性の症状にはめっぽう強いが、基本的には臭いものに蓋をしてるだけだと思っている。
医者は治した風にしてるだけ
整形外科医はレントゲンやC T、M R Iなどを駆使して身体を中から診る事で画像から骨の変形や神経の圧迫などの身体構造に問題がないかを見つけ出す事が得意であり、湿布や痛み止め、注射などで対処的に治すことができる能力を有している。
だがそれは治した風にしているだけであり、結果だけにフォーカスしている付け焼き刃的な治療をしているだけにすぎない。
日常生活に支障が出てしまう初期段階の痛みや痺れなどであれば仕方がないが、いつまでも薬に頼っていては一向に前に進まない。
薬漬けで楽して治している内は、痛みを痺れを誤魔化しているだけの対処療法を繰り返すことになる。
一方で理学療法士は痛みや痺れを根本的に治す力を持っているので、姿勢や動作を見たり身体を触ったりして、身体を外から診ることができる。
体表から「関節が硬い」や「筋力が弱い」などの身体機能に問題がないかを見つけ出すことが得意なので、マッサージやストレッチ、トレーニングなどで痛みや痺れを根本的に治すことができる能力を有している。
よって理学療法士のほうが時間は掛かるが根本を叩く治療を行える。
理学療法士が整形外科を支えている
そもそも整形外科に来院される患者さんの痛みや痺れの原因はレントゲンやC T、M R Iなどから見える身体構造の異常ではない。
画像上で「骨が変形している」や「神経が圧迫されている」など所見があったとしても実際の患者の症状と一致しないことが多い。
痛みや痺れの真の原因は「関節が硬い」や「筋力が弱い」などの身体機能に問題がある場合がほとんどである。
実際に自分が整形外科に勤めていた頃から画像上で骨が変形していたり、神経が圧迫しているなどと言った身体の構造の問題があっても、全く症状がないもしくは別の場所に痛みや痺れがある患者さんも少なくない。
実際の臨床では姿勢や動作をコントロールしたり関節の動きや筋力を改善させることで患者さんの症状が治っていくのを日々実感していたので、身体機能を向上させることが根本治療の一番の近道だと個人的には思っている。
氷山の一角にフォーカスを当てている
所詮、整形外科医は氷山の一角の一角だけを治療しているだけなので、容易に薬で対処的に治そうとしたり、レントゲンやC T、M R Iなどの画像に写る身体構造の問題だけでは判断はしないほうがいい。
何故なら真の原因は地上からは見えない氷山の一角の下の根っこの部分になってくるからである。
根本的に痛みや痺れを治すのであれば氷山の一角の下のデカい氷の根っこの部分である「関節が硬い」や「筋力が弱い」などの身体の機能の問題に目を向けるほうのが重要であると思う。
20代の経験はプライスレス
とまあ俺が8年間、整形外科のクリニックで理学療法士として働いた感想はざっとこんな感じである。
たかが8年されど8年だが、俺にとって理学療法士として働いた8年は濃厚そのもの。
貴重な20代を捧げただけのことはある。
良くも悪くもこの記事を読んでいる方はおそらく医療関係者だと睨んでいるが、何かしらの役に立てれば幸い。
ちなみに俺はこの記事の役立たせ方が思いつかない(あくまで参考に)